本日は私が犯した決して許されないミスを書き残しておこうと思います。
これは、私が決して忘れてはならない出来事です。

ある日、お母様を亡くされたお客様から、指輪製作のご相談をいただきました。
「母との思い出、あの時の自分の喜怒哀楽を、形に残したいんです。」
そうお話しくださったお客様は、お母様の介護をされていたとのことでした。
お母様とは衝突も多かったそうで、看病の中でお客様の心は何度も揺れ、傷つき、葛藤されたそうです。
けれども、それでもなお、全ての感情を受け止めて指輪に託したい——
その思いを胸に、お客様と私は『喜怒哀楽』をテーマにデザインを思案しました。
一度のデザイン変更を経て、ようやく完成した一点ものの指輪。
お客様にご連絡を差し上げ、お渡し当日を迎えました。
しかし、その直前——
納品前の最終確認で、私は思いがけない事実に気付きました。
「素材が違う……」
ご注文は『18金ピンクゴールド』だったにも関わらず、作っていたのは『18金イエローゴールド』。
なぜそんな初歩的なミスをしてしまったのか、何度考えても理由が分かりませんでした。
お客様の大切なお気持ちに応えるどころか、裏切ってしまった。
手が震えるような思いで、お渡しの時を迎えました。

お渡しの際、私は正直に謝罪しました。
「誠に申し訳ありません。素材を間違えて製作してしまいました……」
深く頭を下げた瞬間、お客様は少し驚いたように言葉を返されました。
「え?とても良いじゃないですか。むしろ、イエローゴールドの方が合っているかも。」
そして、こんな言葉を続けてくださったのです。
「母が生前よく着けていたのも、イエローゴールドだったんです。
たぶん……母が“こっちにしなさい”って言ってるんですよ。」
それを聞いた瞬間、言葉にならない思いが胸を満たしました。
しかし、私のミスは事実です。
どんなに結果が良くても、お客様のご希望とは異なるものを作ってしまったことに変わりはありません。
責任を持って、改めてピンクゴールドでも製作し、どちらがよりふさわしいかをお選びいただくことにしました。

そして最終的に、お選びいただいたのは——
やはりイエローゴールドでした。
納品の後、お客様はこんな言葉をくださいました。
「そのミスがあったから、イエローゴールドを手にすることができたんです。
もし間違いがなければ、この指輪はピンクゴールドとしてしか存在しなかった。
だからこれは……必要な間違いだったのかもしれませんね。」
とても優しいお客様でした。
けれど私は、このミスを肯定することはできません。
大切なご依頼において、確認を怠ったことは、今後の教訓として深く刻まれました。
それでも、時が経った今、ふと考えてしまうのです。
最初のデザインにはピンクゴールドが合うと思っていました。
しかし、デザイン変更をした時、自分の中で自然と『イエローゴールドが似合う』と思い込んでいたのです。
それは、もしかすると——
お母さまの、静かなるお導きだったのではないでしょうか?
予定にはなかったイエローゴールドの指輪。
でもそれは、お母さまの面影とつながる、唯一無二の輝きを放っていました。
あの時、お客様と交わした会話、交差した感情。
私は、きっと一生忘れないでしょう。
今日はこの辺で。